海外においても日本と同様に不動産投資という投資手法があり、不動産投資をする土壌が整備されています。
日本からでも海外の不動産に投資をすることは当然可能ですが、言語の障壁や現物資産ゆえの不透明性があるのも事実です。
そこで、本記事では海外不動産に投資することの概説および投資をする際の注意点について解説します。
【目次】
1-海外不動産への投資とは?
2-海外不動産に投資する際の5つの注意点
┗2-1為替レート
┗2-2インフレ率
┗2-3不動産価格の推移
┗2-4商慣習
┗2-5税制
3-まとめ
前提として、海外不動産への投資とはどのようなものなのでしょうか。日本国内での不動産投資とどのように異なるのでしょうか。
海外不動産への投資とは、海外の土地やマンション等を現地の通貨建てで購入し、現地の法律や規制の下で運用を行うことです。海外不動産投資も国内不動産投資も、不動産という現物資産を所有して賃料収入や売却益を得るという基本的な構造は同じです。一方で、海外の資産を外貨建てで保有する海外不動産投資には、国内不動産投資にはない要注意項目が存在します。
例えば、物件を所有するエリア毎に異なる法律や規制があること、局地的な経済ショックや政変、通貨危機といった多方面からの影響によって同エリアの資産価値が上下する可能性があることなどが挙げられます。
海外不動産投資も国内不動産投資と大枠のスキームは同じですが、購入や運用の際に注意しなければならない点が海外不動産投資の方が多方面に渡るということです。逆にいえば、資産価値の変動要因が多いため、利益を出せるポイントが多くなるともいえます。
それでは、海外不動産に投資する際の5つの注意点とは具体的にどのようなことなのでしょうか。どのような影響を想定して投資判断をするべきでしょうか。
海外不動産投資は、国内不動産投資と基本的な構造は同じでもエリアによっては投資環境や前提が大きく異なる場合もあります。物件の立地や人口動態といった根本的な要素のみならず、以下の5つの点に特に注意が必要です。
■為替レート
■インフレ率
■不動産価格の推移
■商慣習
■税制
為替レートとは、2種類の通貨を両替する際の交換比率を指します。海外資産を購入する際はまず円を外貨(米国ドルやユーロ、ポンド等)と両替する必要があり、両替した外貨で資産を購入するという流れが一般的です。資産を売却する際は、反対に外貨を円に両替して最終的な手仕舞いを行います。両替時の為替レートによって外貨を安く買えるか、また、高く売れるかが決まるということです。
海外資産に投資をするときには、当該資産のみならずその国の通貨も同時に保有することになります。同通貨を円に両替せずにそのまま使用する現地居住者等の場合は例外ですが、原則として最終的には外貨を円に両替して投資の出口を迎えることになるでしょう。以上の前提に基づくと、資産価値は通貨価値の影響も受けるということがいえます。
シンプルな例として、1米国ドル(USD)が100円の時に50万USD分の不動産を購入し、60万USDで売れた場合を想定します。売却後、USDを円に両替する際の為替レートが1USD=100円のままだと、1,000万円(10万USD)の売却益が得られます。一方で、売却後に1USD=110円で両替できたとすると、同じ10万USDの売却益でも1,100万円になるということです。
為替レートに特に注意する必要があるのは、新興国の不動産に投資をするときです。新興国の通貨は信用性の低さから価値が下落し続けているものもあるため、同通貨ベースでは利益を上げられていたとしても、円に換算すると損をしているということになりかねません。
通貨安が続いている例の一つとして、トルコリラが挙げられます。トルコリラは2001年から2020年までの20年間で価値が約93%も下落しました。1リラが170円から最安値で12円前後まで下落したのです。
2001年から2020年までの20年間に渡ってトルコ不動産を運用した場合を想定すると、通貨価値の下落によって大幅に損をすることになるでしょう。1リラ170円の時に50万リラ(8,500万円)分の不動産投資をし、20年間毎年10%の年利で運用したとします。毎年5万リラを賃料収入として得られるため、2020年には元本も合わせると150万リラに増えます。しかし、2020年に1リラ12円のタイミングでリラから円に両替すると1,800万円しか返ってきません。リラベースでは資産が3倍に増えていますが、リラの大幅安により円ベースだと80%近くも資産価値が減ってしまうということです。
海外不動産に投資する際は、投資対象となる国の通貨の信用性が高いか、対円での為替レートが下落し続けていないかという点に注意を払いましょう。
インフレ(インフレーション)とは、物価が上昇することを指し、その上昇率をインフレ率といいます。インフレ率が高いと、物価の上昇率が高いということであり、一般的には景気が良い状態であると判断されやすくなります。好景気においては多くの企業の利益が上がることで社員の給与水準も上がり、消費者が物やサービスを多く購入したり消費したりするようになるため、物価が上昇するという状況が発生しやすくなるためです。
1個当たり100円で買えていたものが翌年には110円になっていたとすると、物価が10%上昇した、すなわち、インフレ率が10%であることを意味します。不動産投資に当てはめると、年間のインフレ率が10%であるエリアにおいては理論上の不動産価格や賃料相場が毎年10%の割合で上昇するということになります。
日本のインフレ率は1990年からの30年以上に渡って5%にも満たない数値で推移しているため、インフレ率の観点から考察すると、日本の不動産価格が今後毎年上がっていくという事態は必ずしも想定できません。一方で、海外においてはアフリカ大陸や南米の新興国、東南アジア諸国を中心に高いインフレ率が続いている国もあります。インフレが進んでいるエリアの不動産に投資をすれば、物価上昇の波に乗って売却益を狙える可能性があります。
インフレ率が高いというのは不動産価格や賃料相場を含む物価が上がるというメリットばかりではないため、注意しましょう。インフレによって物価が上がるということは、通貨価値が下がっているともいえるためです。物価が10%上がるということは、通貨安が約9.1%進んだことと同義です。通貨安が進むと、為替レートにも影響が出る可能性が高いため、最終的に円換算すると損をしているということにもなり得ます。
海外不動産投資においては、インフレ率と通貨価値の関連性を念頭に置いて、不動産価格や賃料相場の上昇を狙いつつ、通貨安を避けられるエリアを見極める必要があるということです。
不動産価格に影響を与えるのはインフレ率のみではなく、人口増減による不動産の需給バランスも価格変動の要因になり得ます。インフレ率と併せて、不動産価格も確認しましょう。インフレが進んでいても不動産価格は下落している、または、その逆になっているエリアも存在します。
シンガポールにおいては、国家の政策として海外の企業や人材を誘致する政策を打ち出しているため、海外からの企業や人材とともに資金も流入しています。1970年からの50年で人口は約3倍(約200万人から約600万人)になりました。人口が増えるということは、一般的に住宅をはじめとする不動産の需要が高まるということです。実際、シンガポールの不動産価格指数は1998年からの2013年までの15年間で2倍以上になり、2013年以降も同水準を保っています。一方でシンガポールのインフレ率は1980年以降、高くても5%前後の水準です。
対照的に、ドバイのように人口増加や実質GDPの増大が続いていても、住宅の過剰供給による需給バランスの崩壊や原油価格の下落といった他の要因によって不動産価格が低迷を続けているエリアも存在します。
不動産価格は多方面からの影響を受けるため、人口動態や経済状況といった他の環境と併せて不動産価格の推移を考察するのが得策です。
不動産投資あるいは不動産賃貸業の基本的な構造は海外も日本も共通である項目が多くあります。一方で、商慣習が異なれば投資や事業の方法も異なることもあり得るでしょう。日本国内での商慣習や常識で海外不動産投資を行うと、手間取ったり円滑に進まなかったりすることも想定されます。海外不動産投資を行う際は当該エリアの商習慣を事前に確認し、「郷に入っては郷に従う」の精神を持つことが重要です。
物件売買の流れ、賃貸運営の方法などの各フェーズにおいて日本の商慣習とは異なるルールが存在する場合があるため注意が必要です。例えば、物件の売買において日本では売主と買主の間で価格の合意ができたタイミングで売買契約書を作成するのが一般的ですが、アメリカ西海岸では、買主は購入希望物件が見つかるとすぐに売買契約書(オファー)を作成して売主に提示するという慣習があります。他にも、韓国の不動産賃貸においては、賃貸契約時にまとまった保証金を借主が貸主に支払うことで毎月の賃料支払が免除されるという制度(チョンセ)があります。チョンセにおいて、貸主は受け取っていた保証金を借主の退去時に全額返還しなければならないため、借主は実質的に賃料負担なしで家を借りることができるのです。なお、チョンセが成り立つ理由の一つには、貸主は借主から受け取った保証金を賃貸借期間中に運用して収益を得られるという貸主側のメリットが挙げられます。
日本にはない慣習や制度があるエリアも存在するため、「郷に入っては郷に従う」の精神で事前に独自の商慣習を確認し、投資家側のメリットとデメリットを検討するようにしましょう。
不動産投資の収支に大きな影響を与える要素の一つに税金があり、どのタイミングでどの程度の割合の税金が発生するかは、エリア毎の税制によって異なります。キャッシュフローを正確に見積もるためにも、税金による突発的な支出を避けるためにも投資検討エリアの税制は要確認事項の一つです。
ドバイやジョージアのように不動産に係る税金が日本よりも大幅に安い国もあれば、シンガポールのように外国人による不動産取得を抑制する方針のもと、外国人のみに追加の税金が課される国もあります。
税制については専門的な知識が求められる局面が多いため、専門家の助言を基に情報収集するのが得策といえるでしょう。
海外不動産投資には日本にはないうまみを享受できる可能性が多くある一方で、投資の前提が日本とは全く異なる場合もあります。不動産投資の根本的な項目と併せて、投資の判断材料にする必要のある項目が多岐に渡るため、現地の不動産投資事情に精通した専門家の意見を聞くことが投資を成功させるための重要な要素の一つといえるでしょう。
なお、上述の海外不動産投資に係る解説はあくまで一般論であり、個別具体的な考え方や手法は物件やエリアによってケースバイケースです。より詳細な情報やノウハウ等についてはお気軽にお問い合わせください。